大分地方裁判所佐伯支部 平成元年(ワ)21号 判決 1994年8月31日
主文
一 被告佐伯実業有限会社及び被告有限会社古商は、連帯して、原告らに対し、それぞれ金五〇〇万円及びこれに対する平成元年一〇月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は、被告らの負担とする。
三 この判決は、仮に、執行することができる。
理由
第一 請求
1 (主位的請求)
主文一項同旨
2 (予備的請求)
被告佐伯実業有限会社は、原告らに対し、それぞれ金五〇〇万円及びこれに対する平成元年一〇月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
佐伯実業有限会社と被告有限会社古商との間の訴状に添付している別紙物件目録(補正後のもの、以下同じ)記載の動産についての、平成元年四月一二日付売買契約を取り消す。
被告有限会社古商は、佐伯実業有限会社に対し、右別紙物件目録記載の動産を引き渡せ。
第二 事案の概要
一 請求原因
(主位的請求原因)
1(間接強制の決定)
原告らは、佐伯実業有限会社(以下「旧佐伯実業」という。)を債務者とする大分地方裁判所佐伯支部昭和六一年(ヲ)第四五号間接強制申立事件につき、昭和六一年九月二二日、同庁から次の内容の決定(以下「本件間接強制決定」という。)を得た(争いない。)。
(一) 旧佐伯実業は、各原告らに対し、本決定送達の日(昭和六一年九月二五日)から一〇日以内に昭和五一年一月から現在までの会計帳簿及び書類を謄写又は閲覧させよ。
(二) 旧佐伯実業が右期間内にその閲覧又は謄写をさせないときは、旧佐伯実業は各原告らに対し、右期間の末日の翌日から閲覧又は謄写を終えるまで、一日につき各金五〇〇〇円の割合による金員の支払をせよ。
2(間接強制金の取得)
旧佐伯実業は、右期間中、原告らに対し、右帳簿類の閲覧・謄写をさせなかつたのみならず、今日に至るまで閲覧・謄写をさせていないので、原告らは旧佐伯実業に対し、昭和六一年一〇月六日から閲覧謄写を終えるまで一日金五〇〇〇円の割合による金員の支払請求権を取得し、平成元年八月三一日現在、右金額は各金五〇〇万円を下らない。
3(旧佐伯実業と被告佐伯実業有限会社との同一性)
登記上、旧佐伯実業は、右閲覧謄写期間満了後である昭和六一年一〇月三一日の社員総会の決議により、同年一一月一八日に解散し、その直後の同月二一日に被告佐伯実業有限会社(以下「被告新佐伯実業」という。)が設立したものとされているが、右解散決議が現実になされた形跡もなく、以下に述べることを併せ考えると被告新佐伯実業と旧佐伯実業の実態は同一であつて別個の法人格として評価することはできない。
即ち、旧佐伯実業と被告新佐伯実業とはいずれも鋼材及び金物の販売等を主な営業目的として掲げ、かつ営業活動の本拠地はともに佐伯市《番地略》にあり、被告新佐伯実業は旧佐伯実業の従業員並びに敷地、建物、工場設備一式をそのまま利用し、また、材料の仕入先・販売先等の取引先も旧佐伯実業のそれと変わらず、営業活動に間隙はなく、さらに被告新佐伯実業は旧佐伯実業の債権・在庫商品等をそのまま承継しており、旧佐伯実業の清算事務は全くなされていない。
右閲覧・謄写期間満了後僅か一か月半足らずで旧佐伯実業の解散登記がなされ、その三日後に旧佐伯実業と全く同一の実態の被告新佐伯実業の設立登記がなされた経緯に鑑みると、被告新佐伯実業は、専ら旧佐伯実業が原告らに対して負担する債務を免れる目的で設立されたものと言わざるを得ない(法人格の濫用)。
したがつて、信義則上、被告新佐伯実業が旧佐伯実業と別人格であると主張して、旧佐伯実業が原告らに対して負担する前記債務の履行を免れることはできないというべきであり、各原告らは、被告新佐伯実業に対して、右債務の請求をなしうると解すべきである(法人格否認の法理)。
4(被告新佐伯実業と被告有限会社古商との同一性)
被告有限会社古商(以下「被告古商」という。)は、平成元年四月四日に設立登記をしている(被告古商との間では争いがない。)が、その実態は被告新佐伯実業と全く同一である。
即ち、登記上本店の所在地は被告新佐伯実業と全く同一であり、会社の営業目的も、被告新佐伯実業の目的が「鋼材及び金物の販売」とされていたものが、被告古商の目的が「鋼材、ステンレス鋼の販売」とされている外は全て同一である。その営業活動をみても被告古商の設立登記後も、建物・敷地・商品等すべて被告新佐伯実業のものと、被告古商のものとを明確に区別することなく使用しており、材料の仕入先・販売先等の取引先や取引によつて生じた債権債務、更には電話番号に至るまで被告新佐伯実業のそれと全く同一であり、同被告にあつては登記上の解散手続さえ経ておらず、被告古商と被告新佐伯実業との間に営業の間隙は何ら認められない。
なお、登記上被告古商の代表取締役は、古川昭司(以下「昭司」という。)となつているが、同人は旧佐伯実業・被告新佐伯実業の代表者である古川健三(以下「健三」という。)の実弟で(実弟である点については被告新佐伯実業との間では争いがない。)、被告新佐伯実業の従業員であり、もともと同社の商品販売部門の責任者だつたものである。したがつて、形式的には役員が変更してはいるものの、実質的な経営者は被告新佐伯実業と被告古商との間で差異はない。
ところで、原告らあるいは原告垣浪セツ子(以下「原告垣浪」という。)を清算人とする古川金物株式会社(以下「古川金物」という。)と被告新佐伯実業あるいは旧佐伯実業との間には数件の訴訟が係属しているところ、大分地方裁判所佐伯支部において前記間接強制決定以外にも、右古川金物が旧佐伯実業に対し動産引渡請求を求めた昭和六〇年(ワ)第二三号動産引渡請求事件が昭和六三年一二月五日に結審し、平成元年五月八日には古川金物の請求を認容する判決が下されている。
その実態が全く同一であるにもかかわらず、債権執行の気配を察するや法人格のみを次々と変えるのは、まさに原告らを初めとする債権者からの責任追及を免れる意図から法人格を濫用するものにほかならない。
したがつて、法人格否認の法理により、信義則上、被告古商も被告新佐伯実業及び旧佐伯実業と別人格であると主張できず、原告らは、被告古商に対して前記債務の請求をなしうる。
(予備的請求原因)
1 主位的請求原因の1、2のとおり
2 新佐伯実業は、被告古商に対し、平成元年四月一二日、前記訴状添付の別紙物件目録記載の動産類を代金二五〇〇万円で売り渡した(争いない)。
3 しかし、新佐伯実業には、右動産以外には他に見るべき財産はない。
4 新佐伯実業及び被告古商は、新佐伯実業の債権者を害することを知りながら、敢えて右売買をしたものである(なお、被告古商が害することを知らなかつたことが抗弁である。)。
二 主要な争点
1 旧佐伯実業は、本件間接強制決定に基づいて、原告らに対し、閲覧・謄写をさせた、もしくはそのための提供をしたといいうるか。
(原告らの主張)
被告らが、責任を免れるためには、少なくとも口頭の提供を要するところ、被告らはこの提供すらしていない。
(被告らの主張)
本件間接強制決定の解釈としては、旧佐伯実業の方で積極的に日時場所等を特定して閲覧謄写を促す必要はなく、原告らが閲覧謄写を請求してきた場合、これに応ずべき義務を負うに過ぎないというべきである。
原告らからは、昭和六二年二月の強制執行までの間、日時を特定した節度ある閲覧謄写の請求はなかつたし、これ以降は、文書によつて明確に、原告らから事前に日時を特定した請求があれば閲覧に応じる旨の通知をなすとともに、現実にこれに応じる態勢をとつていたものであり、現に閲覧もさせ、さらに帳簿類一切を送付したものであるから、旧佐伯実業において、右決定に違反したものではない。なお、原告滝キヨ子についてはこれまで一度として閲覧謄写の要求をしたことはない。
2 被告新佐伯実業が旧佐伯実業と法人格が異なると主張することができるか。
3 被告古商が被告新佐伯実業と法人格が異なると主張することができるか。
4 被告古商が被告新佐伯実業と法人格が異なると主張することができるとしても、前記売買契約を詐害行為として取り消しうるか。
第三 争点に対する判断
一 争点1(本件間接強制金の発生--閲覧謄写義務違反)について
前記争いのない事実及び《証拠略》によれば、
1 昭和五四年ころ、原告ら及び健三、昭司の父である亡古川幹一がもともと経営していた古川金物の清算人となつた原告垣浪は、旧佐伯実業が右古川金物から品物を持ち出したとして、清算上必要と考え、株主たる地位に基づいて、他の原告とともに、昭和五七年、旧佐伯実業を相手に本件の閲覧謄写の訴えを提起し、昭和五九年一二月二八日、一審の勝訴判決を得、昭和六一年九月二二日、前記のとおり、本件間接強制決定を得た。
2 本件決定以前から、また決定以後、決定で指示された期間(昭和六一年九月二六日から同年一〇月五日)を含め、原告垣浪は、帳簿を閲覧・謄写するため、遠方に居住しているので、事前に時間及び場所について打合せしようと考え、原告らを代表して、再三にわたり、帳簿を閲覧・謄写させて欲しい旨、電話を架けたところ、原告垣浪からの電話だと分かると電話を切られたり、応対にでた旧佐伯実業の従業員である昭司が代表者の妻である古川啓子(以下「啓子」という。)でないと事情が分からないと返答したり、また、右啓子が代表者をしていた佐伯銘板の従業員に啓子に帳簿閲覧の件で至急連絡してほしい旨伝言しても、啓子を初め旧佐伯実業の方から連絡がなされなかつたりして、要領を得なかつた。
旧佐伯実業の代表者であつた健三は、このような原告垣浪の態度に煩わしくなり、後記のとおり、同年一〇月三一日旧佐伯実業を解散することにし、右啓子が清算人となつた。
3 同年一二月二日、原告垣浪及び同古川誠一は、事前に連絡をして、旧佐伯実業を訪ねたが、取り合つてくれず、その後も誠意ある応対がなかつたので、本件間接強制決定を債務名義にして、昭和六二年二月六日に強制執行を実施した。
同月二四日、旧佐伯実業の方から具体的な申出もないまま執行を受けたとして抗議するとともに閲覧の希望日時を連絡して欲しい旨の内容証明郵便を原告らに出したところ、原告らは連名で、同年三月一二日付の内容証明郵便で、閲覧対象の帳簿類を限定したうえで、準備でき次第連絡して欲しい旨伝えた。
そこで、原告垣浪及び同古川誠一は、同年四月一六日、旧佐伯実業の方から指定された日時場所に、弁護士とともに赴いたところ、整理されていない段ボール二、三〇箱を示され、うち二箱のみを持ち帰つて検討したが、途中一時間で返すように催促を受け返還を余儀なくされ、結局十分な検討ができなかつた。
4 そのため、原告垣浪は、同年五月一八日付の内容証明郵便で、旧佐伯実業の代理人的立場にあつた弁護士に対し、双方弁護士及び公認会計士立会いのもとで、同年六月一三日と閲覧の時間を指定し、同年五月二六日付の内容証明郵便で、旧佐伯実業に対しても同様の連絡をした。
これに対し、旧佐伯実業の代理人弁護士からは所用のために立ち会えない旨の返答があつたが、旧佐伯実業の方から連絡は一切なかつた。
5 その後、原告らは、税理士を通じて、旧佐伯実業に対し、必要な帳簿類を送るように内容証明郵便を出したところ、本件間接強制決定で謄写・閲覧させるように指定されている昭和五一年度から同五四年度までの売掛台帳を除く段ボール二箱分が送付されたのみであつたので、残りのものを送つてもらうように内容証明郵便を出したが、受取を拒否された。その後は現在に至るまで、旧佐伯実業の方から連絡は一切ない。
ことが認められ(る。)《証拠判断略》
ところで、被告らが、閲覧・謄写させたといいうるためには、少なくとも口頭の提供、すなわち、債務者において、債権者が弁済を受けようと思えばすぐにそれができるだけの具体的な準備をしたうえで、債権者に通知して受領の催告をなすことを要するところ、旧佐伯実業において、昭和六二年二月六日に強制執行を受けるまで、口頭の提供がなされなかつたことは、右認定事実に照らし、明らかであるし、その後には、一部本件間接強制決定に沿うかのような態度もないではないが、以上の認定事実、殊に書類等が膨大な量であつたことを斟酌しても、未整理であつたり、閲覧の時間を制限されたり、肝心な部分の売掛台帳が欠落する等の状況に照らせば、閲覧・謄写させたと評価するためには、疑問があり、結局のところ、全体を通じて、右決定に違反したというほかない。なお、前掲証拠によれば、原告垣浪の対応もやや感情的になつていたことが窺われるが、この原因はもつぱら旧佐伯実業の方にあるというべきであり、右の判断を左右しない。また、右のとおり、原告垣浪が中心となつて行動しているが、同人は他の原告を代表していたものと認められる。
したがつて、原告らは、その主張の間接強制金請求権を有しているというべきである。
二 争点2(旧佐伯実業と被告新佐伯実業の同一性)について
《証拠略》によれば、
1 旧佐伯実業は、昭和六一年九月二二日に本件間接強制決定がなされた直後である同年一〇月三一日に社員総会の決議により解散し、同年一一月一八日にその旨の登記がされ、被告新佐伯実業は同月二一日付けで設立の登記がされている。
2 しかしながら、右両会社は、資本金が増加し、健三の他啓子が新たに社員となつた他は、商号、代表者及び営業目的が全く同一であり、かつ、営業の本拠地はともに佐伯市《番地略》にあり、被告新佐伯実業は旧佐伯実業の従業員及び敷地・建物・工場設備一式をそのまま利用し、また材料の仕入先・販売先等の取引先もそれと変わらず、債権・債務及び在庫商品等をそのまま承継しており、旧佐伯実業は前記のとおり啓子が清算人になつているものの、清算事務はされていないこと、原告らと旧佐伯実業との間には以前から前記のとおり帳簿閲覧請求等を巡つて争いが存在し、健三は、主として原告らの右請求及び前記損害賠償金等の請求から免れる目的で被告新佐伯実業を設立した(なお、健三自身、原告垣浪の嫌がらせに堪えかねて旧佐伯実業を解散した旨、また実態が全く変わつていないことを自認している。)。
ことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
右事実を総合すれば、健三が右債務の支払を免れるために、実質の変わらない被告新佐伯実業を設立したものというべきであるから、被告新佐伯実業が旧佐伯実業と法人格が異なることを主張することは法人格の濫用として許されないことは明らかである。
三 争点3(新佐伯実業と被告古商の同一性)について
《証拠略》によれば、次の事実が認められる。
1 原告垣浪は、被告古商設立(平成元年四月四日)直前ころに、大分地方裁判所佐伯支部に対し、旧佐伯実業に対して有していた本件間接強制金及び法人格否認の法理に基づき、被告新佐伯実業に対し動産仮差押の申立をしたところ、一審では却下されたが、抗告審で右決定が取り消され、平成元年五月三一日、仮差押決定がされた。しかし、この時点では、被告古商が設立され、被告新佐伯実業の有していた動産類の占有が被告古商に移転されていたため、原告垣浪は執行を断念し、あらためて、同年六月二四日、被告古商を相手に仮差押の執行をした。
2 被告古商と被告新佐伯実業とは、営業の本拠地はともに佐伯市《番地略》にあり、会社の営業目的も登記の上では若干の違いはあるものの実際は同一であり、被告古商は、営業所敷地・建物、商品の全部、車両、機械、什器備品、電話加入権等を健三及び被告新佐伯実業から譲り受けてそのまま使用又は引き続いて販売しており、商品、材料の仕入れ先、販売先も殆ど同じであり、従業員も一名は被告新佐伯実業の従業員であつた者を雇用し、取引金融機関も取扱支店は異なるものの同じであり、また昭司は取引先に名前が変わつたと説明した。
被告新佐伯実業は、船具の販売とパイプ切断等を主たる業務とするものであるが、売上の全体の約九割を占める右船具販売部門を被告古商に事実上一括譲渡し、解散等はしないでそのまま存続し、倉庫と工場のあつた佐伯市女島において平成元年四月以降、当初パイプの切断加工を健三の息子が細々としていたものの、間もなくしてからは事実上休業状態にある。
3 両会社の役員については、被告新佐伯実業は代表者健三と取締役であるその妻の啓子の二人であり、被告古商は代表者昭司と元被告新佐伯実業の従業員であり、取締役であるその妻の古川シズ代の二人であり、また、それぞれの出資者(ただ、その金銭の流れは明らかではない。)も異なつている。
しかし、右昭司は、健三の実弟で、被告新佐伯実業においては、専務と呼ばれ船具販売部門を担当し、同被告のため自己所有の不動産を担保に供する等し、健三が病気で入院している時等には中心となつて働いていた者であり、また、前記のとおり、原告垣浪と電話等で、旧佐伯実業等の間の争いの件で度々応対したことがあり、健三から種々の訴訟を提起されてくるので営業を継続するのが嫌になつた等と聞かされており、被告新佐伯実業及び健三らと原告らとの間に長年にわたる紛争及びこれに関する多くの訴訟があることを十分に知つていたし、右訴訟においては健三側の立場に立つていたもので、原告垣浪らが被告新佐伯実業に対して強制執行してくるかもしれないことも知つていた。
以上の事実が認められ(る。)《証拠判断略》
右認定事実を総合すれば、被告新佐伯実業と被告古商の実態は基本的には前後同一であり、健三は、原告らの被告新佐伯実業に対する追及を免れる目的で、営業に必要な商品類の殆どを被告古商に一括譲渡したものであり、しかも前認定のとおり、代表者及び出資者が異なるとはいえ、後記の事情も併せ考えると被告古商を事実上支配できる地位にあるものというべきで、かつ会社形態を不当に利用しているものということができ、そして、昭司も右の事情を十分分かつたうえで被告古商を設立したものというべきである。
そうすると、被告古商の設立は法人格の濫用に当たるものというべきで、同被告は原告らに対し、法人格否認の法理により、少なくとも本件間接強制金の請求を求めている本件事案では自己が被告新佐伯実業と法人格が異なることを主張できないというべきである。
もつとも、前掲各証拠によれば、平成元年四月四日に、被告古商が設立された後、同被告が同月一二日、健三から営業所のある土地建物を金二二〇〇万円で、被告新佐伯実業から商品等の動産類を金二五〇〇万円でそれぞれ買い受け、その支払いのため、被告古商において金五〇〇〇万円を佐伯信用金庫から借り入れ、その際、旧佐伯実業のために佐伯信用金庫に担保に供していた昭司所有の不動産について債務者を被告古商に変更し、かつ申込時点では当時健三所有であつた右営業所のある土地建物を担保に供して(なお、この点について甲四二の担保品台帳は、被告古商代表者の供述等に照らし、右借受当時の状況を正確に記載したものとは認めがたい。)、右借入金をもつて前記代金計金四七〇〇万円を支払つたこと、右土地建物の登記については同月一四日に同月一三日付設定を原因として佐伯信用金庫のために根抵当権が設定され、同月一四日に同月一二日付売買を原因として健三から被告古商への所有権移転登記が経由され、被告新佐伯実業はその受領した右売買代金から買掛金債務を支払つたことが認められるが、これらの事実は前記の認定・判断を左右するものではないし、かえつて、これと前記認定の事実に昭司が被告新佐伯実業と原告垣浪らの紛争を十分知つたうえ、健三から勧められて被告古商を設立したもので、健三側に立つ人物であること等を併せ考えると、右売買は健三の主導的な指導協力がなければできないものであつて、被告古商の設立については健三の影響力及び支配力を否定することはできないというべきである。
四 よつて、原告らの主位的請求はいずれも理由がある。
(裁判官 金光健二)